初めての宿泊旅行といえば小学6年生の修学旅行「京都・奈良」、500円のお土産買い物と宿での枕投げしか覚えてない、古きゆかしき古都の史跡は見ただけ。だが来年からは見えない!?
奈良へ来る修学旅行の定番は、「東大寺大仏殿」「興福寺国宝館」「奈良公園」というほど、ほとんどの学校が「興福寺国宝館」を訪れる。大人の願い「日本の歴史を直に触れ、知識見聞を拡げてくれ!」は親の自己満足でしかない。明日25日は、子どもの成長や学業成就を願う「文殊会(もんじゅえ)」が奈良市の興福寺で催され、色とりどりの衣装の稚児行列が三条通りから寺に向かって練く。山伏や花笠、茶坊主などの衣装を着て、三条通り沿いの浄教寺から興福寺までの約800メートルを30分ほどかけて歩く。これもまた「親バカ」で子どもは親が嬉しそうだから、自分も楽しい気分に。
法相宗大本山「興福寺:こうふくじ」は、南都六宗の一つに数えられる寺院で、本尊は釈迦如来。南都七大寺2番。南円堂は西国三十三箇所第9番札所。東金堂は西国薬師四十九霊場4番。「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産に登録されています。天智8年(669)藤原鎌足夫人「鏡女王:かがみのおおきみ」が、夫の病気平癒を願って「釈迦三尊像」を本尊として建立した「山階寺」が起源と伝わります。後に、その子息の「藤原不比」等が、平城京左京の現在の地に移建し「興福寺」と名付けました。東金堂は神亀3年(726)聖武天皇が叔母の元正太上天皇の病気平癒を願って造営されました。薬師如来坐像を本尊に、維摩居子坐像、文殊菩薩坐像、日光・月光菩薩立像、四天王立像、十二神将立像が安置されます。「文殊菩薩坐像」は、古くから学問僧の祈願仏として信仰されました。 「文殊会」は仏説文殊師利般涅槃経(もんじゅしりはつねはんきょう)...文殊菩薩を供養したいと思はば、文殊菩薩は貧窮孤独苦悩の衆生となって現れよう。貧者に施給するは、文殊菩薩を供養することになる。と、文殊菩薩をお祀りして、人々を救い教化し、孤児を養い育てることを祈願する法会でした。法会の起源は「淳和天皇:じゅんなてんのう」(786~840)のとき、勤操、泰善等が畿内、飯をつつみ、菜を加えて、諸々の貧者に施す社会福祉的な善業を、公家と協力して行なったのに始まります。文殊会のほとんどは平安朝の末期に衰退してしまいましたが、興福寺では、江戸時代も後半享保年間にも文殊会が続いていました。知恵、福徳、富貴の「菩薩の知恵」にあずかろうとする稚児の行列が、浄教寺から奉納された一字書の奉額車を引いて三条通りの坂道を東金堂に向けて練行します。 他に、書道展や茶会が催されます。「文殊菩薩」正式には「文殊師利法王子菩薩摩訶薩」。サンスクリット語のManjusriの音写で、Manjuは美しい、魅力ある。Sriは繁栄、栄光王者の意で、妙吉祥尊、妙徳と訳されます。その絶大な「智慧」を象微して、獅子に乗る姿で表されます。
「国内国宝仏像彫刻の17%が興福寺にあり!」というキャッチコピーは伊達じゃありません。国宝館だけでも国宝40点・重要文化財19点を展示してるということです。ここで、「阿修羅像」や「興福寺仏頭」など教科書に出て来る本物を一箇所で鑑賞することができるので修学旅行としては便利な施設です。その「興福寺国宝館」が、耐震補強工事のために平成29年1月1日(日)~平成29年12月31日(日)の丸一年間休館するということがわかりました。
国宝館の中央に安置されている「木造千手観音立像」は、現在の国宝館の位置にあった「食堂(じきどう)」の本尊です。食堂は、1180年の平重衡による南都焼討で焼失し1187年には再建しましたが、長らく仮本尊であったみたいで千手観音立像は1229年頃完成とされています。そして、1874年(明治7年)、廃仏毀釈のあおりで興福寺が荒廃していた時代に取り壊されてしまいました。手観音立像は、5.2mの巨像で金箔が残っており圧巻です。これほどの観音さまを本堂でなく「国宝館」という展示施設で拝むのは悲しいことです。国宝館の仏像などは、かつて興福寺にあった中金堂(ちゅうこんどう)・東金堂(とうこんどう)・西金堂(さいこんどう)などに安置されていた仏像達が安置されています。このことから興福寺が昔いかに勢力を持っていたことがわかります。乾漆八部衆立像は、もと西金堂本尊釈迦如来像の周囲に安置されていた群像です。その中でとくに有名なのが「阿修羅像」です。木造金剛力士立像や木造天燈鬼・龍燈鬼立像も西金堂に安置されていました。旧東金堂には、銅造仏頭や板彫十二神将像などが安置されていました。
国宝館の休館は、平成29年1月1日(日)~平成29年12月31日(日)なので、それまでに一度訪れたいものです。ただ、平成29年の3月~5月と9月~11月の間に、仮金堂で阿修羅像をはじめ八部衆や十大弟子、金剛力士像などの主要な国宝は特別開帳が開催される予定です。 2009年、東京国立博物館等で開催された「国宝阿修羅展」の入場者数は世界一なのだそうです。インバウンドで外国人だらけの奈良、興福寺と猿沢の池の眺望。古き良き光景と仏像や木造建築の繊細さから外国人ならずとも「温故知新」を深く空気・肌で感じられそうで、還暦に成る年頃には何度も行ってみたくなる。歳を重ね、受検のために日本史を学び、知を重ねた境地なのか、単に「大河ドラマ」の見過ぎか。